「按摩師甚五郎」 2 (ショートショート)
「按摩師甚五郎」 ゲーム
「なかなか見つかりませんね・・・。」
リキシャを降りた甚五郎は、インドの強い日差しを浴びながらつぶやいた。この町に着いたのは早朝だが、既に太陽は中天でご機嫌に燃えている。
インドはこれで3度目。瞑想アシュラムがあるこの町には、延べでおよそ一年間滞在したことがある。長期滞在する時は、月極めでインド人宅のゲストルームを借り、そこからアシュラムに通う。だが、今回は2週間ほどの短期滞在なので、アシュラム周辺のホテルを探すことにした。土地勘はあるので心当たりのホテルを回ってみるが、この地域のハイシーズンらしくどこにも空室はない。
インドの町を歩いていると、よく見知らぬインド人に「ジャパン、安くていいホテルがあるぞ」と声を掛けられる。彼等は外国人に正規より高い値段でホテルを紹介し、ホテルから紹介料を貰っている人たちだ。特に日本人は断れない人々なので、彼等の格好のカモになる。
馴染みの屋台でチャイを飲みながら、ふと面白いアイデアが浮かんで来た。
「これもまた瞑想になるかも知れませんね。」
チャイを飲み終え、通りに出る。
「さて、"インド人の言う通り"ゲームのスタートです。」
いかにも紹介料稼ぎのインド人に声を掛けられても、ニコニコ微笑みながら「オーケー」と身を任せるつもりの甚五郎。
一度深呼吸をし、甚五郎はこの町に、すべてのインド人に心を開いてみた。
すると、お馴染みのインドの町が、より親しみを増し優しく開いたように見える。
「世界を狭くしていたのは私でしたか」と苦笑しながら歩き出す。
自分がいかにこの町やインド人に身構えていたのかをはじめて知った甚五郎。無駄な身構えを手放してみると、なんだか素敵な予感に包まれる。「さあ、これから何がはじまるのでしょうか」とわくわくしてしまう。
その後、予想通りいかにも胡散臭いインド人に声を掛けられ、無邪気にニコニコついていったホテルは想像以上に快適で格安だった。
心と体、人生について、またひとつ学んだ按摩師甚五郎。
ほぼ実話。
実際は20年ほど前、ぼくたちカップルと友人カップル4人でやったゲーム。
宿がぜんぜん見つからなかったハイシーズンのインドで、サクッと2カップルとも快適な宿をゲットしたという面白い経験。
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