「按摩師甚五郎」 4(ショートショート
「按摩師甚五郎」 ゲーム(3)
「お花畑なポエマー」。甚五郎は姪の萌菜(もな)が言った言葉を思い出していた。
「お花畑の詩人・・・。そういう生活もよいですね。」
などと夢想していると、視界の端で人影が動く。見ると、治療室の窓からこちらを覗き、手を振っている萌菜の笑顔。
「さ、て、と。 "開くと願えば世界は開くのさ" みたいなお花畑っぽいお話しの続きね。ちゃんと続きがあるんでしょ?」
「いえ。あれがすべてです。」
「え~!? "私は世界に開いている"って考えるだけじゃ何も変わらないでしょ? 体とも関係ないし。」
「はい。考えるのではなくて、感じなくてはいけません。」
「感じるって?」
「そうですね。治療室の周りの風景を眺めて、その風景全体を感じてみるとよいです。萌菜子、いや、萌菜さんがその風景全体に包まれていると、全身の肌で感じてみて下さい。なんとなく "感じてみようかな" 程度でよいですから。」
「・・・。あれ? なんだか、体が広がったような気がする。」
「それが "世界に開いている" または "開こうとしている" 状態です。」
「なんか不思議~。これ、何が起きているの?」
「現代人は特になのですが、私たちは普段主に "考え" や "頭" の中で生きています。そこで、体や感覚はおろそかになり閉じてしまいます。ですが、風景を感じようとした途端に閉じていた感覚が開くのです。」
「なんだかとっても風通しのいい感じ。これとは逆だけど。前に甚ちゃんが話してくれた、閉じている時は "体は重く行動力も鈍り、思考の幅や視野も狭くなる" っていうのもなんとなくわかるわ。」
「ところで、そうやって世界に対して開いていると、実は自分の内側に対しても開くことになります。」
「ん? 自分の内側って何?」
「心の奥、とでも言えばいいでしょうか。例えば萌菜さんが男の子を好きになる時、好きになろうと考えたから好きになるわけではありませんよね。」
「そりゃそうよ。なんだか知らないけど好きになっちゃったり、ビビっと来たりするんだもん。」
「そういう想いが生じてくる所が自分の内側だと思って下さい。そこから生じて来るのは恋だけではなくて、何かに対する興味や好奇心もそうです。」
「・・・。そっか。興味や好奇心も、出そうと思っても出て来ないわね。自分の中から自然に湧き出してくる・・・。へぇ~。」
「興味深いと思いませんか? そうして湧き出して来るものは、非常に個性的でバラエティーに富んでいます。しかもそれは人の思惑を超えた次元からやって来ているのです。」
「面白~い。お花畑から今度はSFっぽくなってきたわね。」
……(続く、と思う)
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