「古今導引集」テキスト化1
ちょうど2年前に「古今導引集」の翻刻(テキスト化)を国会図書館に問い合わせ、翻刻には許可はいらないという解答を頂いたままになっており・・・。
やっとその「古今導引集」のテキスト化を開始。
・国立国会図書館デジタルコレクション - 古今導引集
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1101978
写本の写本、しかもその画像なので、今ひとつ判読不明だったり。
意味のわからない単語も多く、ひとつひとつ複数の日中辞書サービスで検索したり。
調べても該当する漢字がなかったり。
ともかくやたらと時間のかかる作業・・・。(^^;
最後まで続けられるのか不安ですが、ともあれ「導引口訣鈔」の総論にあたるといわれるこの「古今導引集」のテキスト化が終わったら、中途半端になっている「導引口訣鈔」のテキスト化とその図解も再開したいな、と今は思っています。
・本文ルビは括弧内にカタカナで表記。かな表記はpuruによる。
・人名の側線はダッシュ(-)で挟んだ。
・白文の読み下しカタカナ表記をかな表記に改めた。
・新漢字と互換性ある旧漢字は新漢字で表記。但し意味の不明な旧漢字はそのまま。
・写本のさらに写本の画像である為、判読不明または該当する漢字が見つけられなかった文字は○で表記。
・文中の「※」は複数の日中辞書サービスで引いた内容。
古今導引集
宝永四年(1707年)大久保道古/編 宮脇仲策/校訂
昭和12年(1937年) 谷田亭造/訳註 京都鍼灸振興会
刊行に就いて
本書は元は京都府立盲学校教諭鳥居篤治郎先生の厚意に依り東京盲学校図書部より借り入れ写本したるものを更に訳読したるものである。
然し東京の物も写本であって其上白文であったが為め非常に困難した。
従って原本とは多少の誤りが有るではないかと思われる。
本書は宝永丁亥即ち四年の発行であるから今より二百三十一年前に相当する。
発行所は長崎とも浪速とも江戸とも分らぬ。
著者は大久保、宮脇両氏となって居るが之れは何所の人とも分らぬ。
が然し大久保氏が長崎に居て当時明朝から来朝した澄相(トウチャン)公に習うたものを両者が編集した様に思われる。
余等の知る範囲では之等が日本に於ける当時では学問的な独立した導書の最初のものであったではではないかと思われる。
今日之を見て尚参考になる所が多い様に思われる。
文中側線あるは人名である事を申し添ておく。
何分二百有余年前の白文の書物を無学の者が訳読したのであるから誤りは有ると思うが其辺は悪からず御了察が願いたいのである。
古今導引集自序
渾沌(コントン)として未だ判ぜず。
陰陽未だ動かざるの先万物寂寥(セキリョウ)有り名づけて元霊一気と謂う。
茲に既て以て頣養之を練(ネ)るの道を守る。
※頤養(イヨウ):栄養をとらせてやしなう。転じて、中にかこんで大事に育てること。
両儀立ち而して生(セイ)生(ウマ)る。
易に曰く柔剛相摩(マ)八卦相盪(ウゴ)く。
又曰く柔剛相推し変化(ヘンゲ)を生ず。
舜禹(シュンウ)の撫民や天性に任ずるなり。
䟽河(ソカ)水勢に随(シタガ)うなり。
※䟽=疏=疎(ソ。うと・い、うと・む):1.まばら。2.うとい。3.うとんずる。4.とおす。
嬰児若きに至って傷(ヤマイ)に逢えば即ち之を捖捺す。
※捖(かん):1.刮:けずる。えぐる。なでる。2.打
捺(なつ):おす、おさえる。
禽獸悩みあれば則ち之を抓揲(ソウセツ)す。
※抓(そう):1.つまむ、つかむ。2.かく、ひっかく(=掻)。
揲(せつ):1.用例)揲蓍(筮竹をとる)。2.取る。
是れ皆強からずして之を為す。
自然に出で私意を加えざるなり。
大なるかな至れり。
万民に邪を除き苦みを救うを教うる所以。
養生身を護り延齢久しく視るは導喬の術に能う莫(な)きか。
竊(ヒソ)かに視るに経の文。
-黄帝-問うて曰く、或は導引有り行気、喬摩、灸熨(きゅううつ)、飲薬の一を独り守るべきや、将に盡く之を行うか。
天師答えて曰く、諸の方は衆人の方なり一人之を盡く行う所に匪ざるなり、此れ乃ち所謂一を守って失う勿れ、万物畢(おわ)る者なり。
此を以て之を視るに導喬は治術の根本なり。
又-黄帝-曰く、気血を理(ワキ)まえ、順逆を調え、陰陽を察し活かして諸方兼ぬ。
緩節柔筋、而して心和らぐは導引行気せしむべし。
茲に由て之を顧みれば、天下の至精に非ざればその孰(いず)れか此と共によく能う。
史記に曰く、垣の一方の人を視る、又云う、割皮、解骪(かいい)、訣脈、結筋、搦髄(デキズイ)、採荒、爪幕、完腸乃ち此れ本。
※骪(イ。まがる。):=骫:骨が曲がる。わん曲。まがる。
搦(ジャク、ダク。からめる。とる。)
未だ病まざるを治するは道統の心印、養家の急務なり。
若し能く之に達すれば證を察すること鏡に対(むか)う如く、病を治す芥を拾う如く万挙万当危からず。
国家の司命と謂う可く民を生かすの父母なり。
鍼灸薬の効を蔑にし則ち按法に非ずして何ぞや。
必ず死を起し再生を獲るは摩療に非ずして何ぞや。
此術盛んに行わるとき則ち国に疪札の殃(わざわい)無く、家大傷の愁無し、人々壽域に躋(のぼ)り不老の門に入る。
※疪:=痹(しびれ。リューマチ)
札:用例--夭札:若死に。
己みぬるか古えの遠きに去り正伝殆ど湮晦、異流頗りに興り狂瀾難廻。
※湮晦(インカイ):滅び無くなってしまうこと。
余の如き一介の嫰夫、生暇人と為り、導養、術を偏耽孜々、寝床思念、生を技方に投じ診候に碎心専ら熟練を修め爰二年有り。
※嫰(ドン):=嫩(ドン。わかい):幼い。淡い、浅い。軽い、微か。
爰(エン、ここ・に)
孜(シ。つと・める)→孜孜:こまめにつとめるさま。
爰(エン。ここ・に)
恨むらくは真師なく其要を得ず。
肥の長崎に遊び澄相公先生に謁す。
澄公は異域の明医、世業大方、博識強記、喬療絶倫航海して本邦に来る。
復千載の一隅のみ。
先生語って曰く、秘家按喬の術を蔵す、軒、岐、越人の奮法なり之を知るもの鮮(スクナ)し、之を珍し之を秘し浪伝敢てせず。
※軒:軒転黄帝
岐:岐伯(黄帝六臣)
越人:秦氏、名は越人
浪伝:軽率にいいふらす。
今や汝に附属す。
吁(アゝ)諸(コレ)に勉む其命受く感欣心府に徹し手の舞い足の踏むを知らず。
造次顚沛怠ること無く琢磨研究神に入り、或は千鈞の危巌に棲み或は咫尺の怪窟に座し、長齋久潔、霞服嘗露、腸胃自ら空、而して臓腑の形象を探り経肉の順逆を試む。
※造次顚沛(ゾウジテンパイ):とっさの場合とつまずいて倒れる場合。わずかな時間のたとえ。
咫尺(シセキ):1.距離が非常に近いこと。2.貴人に接近すること。→咫尺を弁ぜず:視界が効かずごく近い距離でも見分けがつかないこと。
肆鄽に住むの日 病痾沈痼の徒、千里の道を遠しとせず、雲群星羅、親疎貴賤を択(えら)ばす。
※肆鄽(シテン):店。
病痾(ビョウア):長患い。・類義語:宿痾。
沈痼(チンコ):長年の悪習。長患い。
星羅(セイラ):おびただしくつらなること。
専業救済終日衆を療すと雖も一毛の疲倦莫(な)し。
肘折れ掌脱すと雖も痛痺の骪(ほね)を切るを厭わず。
※骪(イ。ま・げる、ま・ぐ):1.まげる、ゆがめる。2.放っておく、なるにまかせる。
但し相忘るか、導術而して喪世事。
人皆訝風顛天質免患訃彌。
大○の運○を仰ぐと雖も侏儒の短材逮(およ)ばす。
粗開端末童蒙を授くのみ。
※童蒙:道理を知らないこと。無知なこと。
聊(いささ)か昇高の階梯なり若隠括者。
君子の後を援く、凡三国に伝うる所の導摩座功の流、-軒-、岐、-扁鵲-の陳(の)ぶる所と共に氷炭趣きを異にすること無し。
※氷炭:甚だしく異なるものであること。
○壊碎塗、同日而して之を語る可らず豈共均しきか。
惜む可き幾千万の人不幸而して屡(しばしば)否運に逢い、有続而して衷之、垂于無竅者。
※衷(チュウ。うち、うちにする)
光前大いに栄え絶後結草伏して大道興隆を冀(こいねが)い昔の訓(おしえ)を往復し煥然天地と共に其大を擬す。
※煥(カン。あき・らか)
日月と共に其明を令す。
一日門人告げて曰く盍誌の暁を以て来裔するや此術者法に有って而して法に離れ、形有って形に離れ千変万化得心而して手に応ず。
※来裔(ライエイ):あとから生まれてくる子孫。
微妙言意の表に出ず。
輙筆す可からずと雖も因子懇情、強述梗概、○幾初学入門の一助なり。
※輙(チョウ。すなわち):1.すなわち。2.くっついて離れない様。
懇情(コンジョウ):真心のこもった心遣い。親切な心。
梗概(コウガイ):大体の筋。あらすじ。大筋。
宝永丁亥の中春之と共に望む
武江旅館に於て肥州の隱士大久保氏道古欽序
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