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2013/06/17

腕の古語(腕・臂・肘・肱)其の二

昭和のはじめに作られた相撲基本体操での肘と臂の区別は、江戸時代の和漢三才図絵からも実際の動作説明を見ても「肘=肘関節部」「臂=前腕部」でよいようです。(「腕の古語(腕・臂・肘・肱)」)

和漢三才図会(3)〔経絡部、支体部、他〕

和漢三才図絵編纂者の医師寺島良安は、その師より「医者たる者は宇宙百般の事を明らむ必要あり」と言われたのが和漢三才図絵を編纂する動機であったのもあり、その経絡部と支体部の正確さには定評があります。

鍼灸の名人故澤田健先生は和漢三才図絵に関して以下のように語っています。

和漢三才図絵ですか。
あれはなかなかいい本です。
あれを書いた寺島良安という人は、なかなか大した学者であった上に、医者で実地に苦労しているので、よく苦労のあとが現れております。
そういう本になると、一通りや二通り読んだだけでは駄目です。
百編でも二百編でも、分からんところのないようになるまで調べんとだめです。

三才図絵の中で、鍼灸に必要なところは経絡の部と肢体の部で、ほんの僅かですが、なかなかよく出来ています。

和漢三才図絵により、江戸時代に腕や肘、臂、臑(かいな)などの言葉が身体部位のどこを表現していたのか、大体の見当はつきました。
(とはいえ、これらの言葉と部位はあくまで辞書的な整理、定義なわけであり、当時の一般的庶民がどのように使用していたかはまた別だと思います。)

ついでなので、もっと遡って平安時代以降の書物では身体部位をどのように表現していたのか、今度は明治から大正に渡って政府により編纂された「古事類苑:人部 一」で調べてみました。
現代語に直した古事類苑の文章を眺めて数日の間は混乱していましたが、和漢三才図絵の説明を参考にするとかなり見通しがよくなりました。

古事類苑の項目は、「腕」「肱」「臂 肘」と並んでいますが、身体の構成に合わせて並び替えると「肱」「肘 臂」「腕」という順になります。
以下に、古事類苑の中でぼくが気になった箇所をザっと現代語に直して項目順も変えてメモしておきます。

和漢三才図絵の図に江戸時代以前の名称を入れて見ると、けっこうわかりやすいです。
(いっとき混乱してたぼくは頭悪い。orz)
江戸時代以降の俗名は茶、江戸期より前のものは黒字。

Hiji

    • 新撰字鏡:肱=「加比奈(かひな)」。
    • 日本書紀:弱肩(ヨワカイナ)。
    • 倭訓栞:「よわかひな」は神代紀に弱肩と書かれており、今にいう「二の腕」のこと。一節には「左の肩」といい「よつかた」と読むべきだ。
  1. 臂 肘
    • 倭名類聚抄:臂の和名は「比知(ひち)」。
    • 箋注倭名類聚抄:思うに、説文では臂を手の上とし更に厷(※コウ、かいな)は臂の上としている。また「厷は肉に从(※したが)う」とし、肘は臂の節だという。つまり、上を肱とし、その関節を肘とし、肘は比知(ひち)と読むべきであり、臂は多々牟岐(たたむき)と読むべきだ。
      古事記仁徳紀御歌に「辭漏多娜武枳(しろただむき)」とあり、臂は白さを表すので「太々牟岐(たたむき)」といい腕ではないと知るべきだ。
      神代紀、雄略紀、天武紀では臂、齊明紀では手臂と書いて「多々牟幾(たたむき)」と読んでいる。俗には「宇天(うて)」とも読む。肱は「可比奈(かひな)」と読むべきであり、今俗にいう「二乃宇天(にのうて)」がこれだ。
      新撰宇鏡では臂を「太々牟岐(たたむき)」と読み、肱を「可比奈(かひな)と読む。
      靈異記訓釋では臂を「可比奈(かひな)」と読み、後撰集戀部三平定文歌小序、榮花物語、狭衣物語でもまた臂と書いて「加比奈(かひな)と読む。まさに中古の時代は混同しており区別していない。今俗にいう「加多加比奈(かたかひな)」は肩肱のことを指しており臂とのことではない。
    • <伊呂波字類抄:臂(タタムキ)。腕(同じ。俗にいうウテ)。/li>
    • 下學集:肘(ヒヂ)、肱、臂の三字の義は同じ。
    • 延喜式:手肱(タナヒヂ)。
    • 古事記:白き多陀牟岐(ただむき)。
    • 日本書紀:生まれた時既に腕(タダムキ)の上に筋肉があり。
    • 倭名類聚抄:腕の和名は「太々無岐(たたむき)」、また「宇天(うて)」。
    • 箋注倭名類聚抄:應神紀では腕を「多々牟岐(たたむき)」と読み、神代紀、允恭紀では「多不左(たふさ)」と読むが、仁徳紀では両者を使用している。
      新撰字鏡では「月辛」字を「太々無岐(たたむき)と読む。
      醫心方では腕を「多々牟岐(たたむき)」と読み、また「宇天(うて)」とも読む。
      古事記八千戈神歌には「多陀牟岐(ただむき)」と書かれている。
    • 伊呂波字類抄:腕=「ウテ」または「タタムキ」。捥(※ワン、も・ぐ、も・げる)を表す。
    • 下學集:腕(ウテ)。

以下は古事類苑で引用されている和書籍の年代や概要。

  • 新撰字鏡(しんせんじきょう):平安時代、892年(寛平4年)に作られたとされる漢和辞典。

  • 日本書紀(にほんしょき):720年(養老4年)。

  • 倭訓栞(わくんのしおり):1777年~1887年(安永6~明治20年)刊。古語・雅語、方言、俗語を収録。

  • 倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう):平安時代中期、承平年間(938年)に作られた国語辞典や漢和辞典、百科事典的な辞書。

  • 箋注倭名類聚抄(せんちゅうわみょうるいじゅしょう):江戸後期、文政10年(1827)に書かれた倭妙類聚抄の注釈研究書。刊行は1883年(明治16年)。

  • 伊呂波字類抄(いろはじるいしょう):平安時代末期に作られた古辞書。

  • 下學集(かがくしゅう):室町中期、1444年(文安元年)。用字・意味・語源を簡単に記した国語辞書。

  • 延喜式(えんぎしき):平安時代中期、927年(延長5年)に編纂された格式。

  • 古事記(こじき):712年(和銅5年)。

もっと調べたくなっている今日この頃^^

 

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