腹の文化
日本は、武芸に限らず腹の文化、丹田の文化なんですよね。
前に書いた『川合清丸「無病長生法」数息観を試してみる』に引き続き「無病長生法」から引用してみます。
・近代デジタルライブラリー | 国立国会図書館
http://kindai.ndl.go.jp/index.html ←「無病長生法」で検索
復刻版
・「仙家秘訣 無病長生法 付録 至道物語」 川合清丸=著
川合清丸著「無病長生法」本論/吐納法第五より
道人此の頃越路太夫の浄瑠璃節を聞くに。音聲一々丹田の元氣より出でて。臍輪より喉頭に至るの間まったく空洞にて。些(すこ)しも障碍(しょうげ)するもの無し。
是れ渠(かれ)が技名を天下に擅(ほしいまま)にする所以(ゆえん)なり。
其の相手廣助が傍に在りて。三絃を彈くを看るに。渠(かれ)も亦よく丹田の元氣を撥先(ばちさき)に貫きたり。
其の弟子小荘てふ少年が相彈きするを看るも。亦殆ど此の境に至るを見たり。
是れ師弟が滿座の人耳を傾けて嗟嘆(さたん)の聲を發せしむる所以(ゆえん)なり。
彼の未熟の若輩等が胸腹閉塞して。丹田の元氣少しも通ぜず。聲やや喉頭より出で。音やや撥先(ばちさき)より發するものに至りては。徒(いたずら)に人耳を厭(あか)しむるのみ。
何の賞翫(しょうがん)すべき所からむ。
此れは是れ道人が近來の実驗なり。
其の他詩人が名詩を賦する。歌人が名歌を詠ずる。茶人が茶を點ずる。碁客が碁を圍(かこ)める。其の妙處に至りては。皆思案を離れ分別を忘れて。人も無く我も無き。丹田の一氣より發せざるは無し。
醫師が病人を診察するにも。此の法を以てするものと見えて。甲斐の徳本が著せる極秘方てふものに。「總て病人を見るには。心中に一點の念慮無く。氣海丹田へ氣ををさめ。病人も無く我も無き所より手を下せば。自然に見ゆるものなり」。と記せしは是なり。
その道で一流といわれた人々は、皆おしなべて丹田に心がおかれ、立ち居振る舞いは丹田から発していたのかも知れませんね。
技芸の基本である型を守り、そこから修練を積んでいけば自然に腹に落ち着く、そんなシステムだったのかも。
以下は合気道最高段位十段を持つ藤平光一師の著書「氣の威力」からの引用です。
すばらしい音色を出すことで有名な福原百之助という笛の名人と、昔あるところでいっしょになったことがある。
そのとき、福原さんから氣を出す方法を教えてくれと頼まれた。
そこで、笛をもったときのかっこうをしてもらうことにした。
私はその姿勢をとっている福原さんの胸を強く押してみたが、微動だにしない。
これは心も体もグラついていない状態であり、心身が統一されている状態である。
…略…
だが、福原さんが普通の姿勢にもどったところを見計らって、ふたたび押してみると、今度はあっけなく倒れてしまった。
…略…
このような名人と呼ばれるような人は、氣を使って技をみがいてはいるが、それは無意識のうちに使っている場合がほとんどである。
今回引用した「無病長生法」と同様の話です。
一流、名人と呼ばれる人たちは、その技芸の中では、無駄な力みがなくて心身ともに丹田に重心が落ち着いているのでしょうね。
うらやましい……。
どうすれば、このようになれるのでしょう。
以下は同じく「氣の威力」からの引用です。
古来から、東洋では臍下丹田、つまり下腹部を重視し、人間の本当の力はここから出ると考えられてきた。 そのため、「下腹を鍛える」とか「腹をすえる」といった言葉も生まれてきたわけだが、ややもすると、ただ下腹部に肉体的な力を込めれば強い臍下丹田ができる、と考えられるようになってしまった。
藤平師自身も戦時中そのように考え、実際戦地では下腹に力を込めて気合いを入れて向かってみたものの、心臓がドキドキ高鳴り心が落ち着くどころではなかったとのこと。
試行錯誤しながら最終的に理解したのは。
そんな偵察を何度か繰り返しているうちに氣がついた。
「そうだ、下腹は肉体的な力を込めるところではなく、心、すなわち氣を集中させる場所だ」
下腹に心を集中するから、ここに氣が集まり、本当に強い、鉄壁のような臍下丹田ができ、またここから力を発揮することができるのである。
腹、丹田は鍛えるものだと、つい最近まで、ぼくもそう思っていました。
なので、あまり興味がなかったのですが。(^^ゞ
丹田に心を置く、心身の重心を丹田におさめるにはどうしたらよいのでしょう。
鍛えるのではなくて……。
そんな試行錯誤は「按摩師のつぶやき」にぶつぶつ書いてます。
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