江戸時代の正座
最近時々正座をしています。
半跏趺坐よりグッと腰が入り、下腹部に息を充たす時に横隔膜が引き下げられるのがよくわかり。
また、胸が適度に伸びて顎が引けて、なかなか良い感じです。
型とは面白いもので、正座をして丹田に重心が落ちると気分は腹の据わった武士。
意識がシーンと引き締まり、気分はくつろいでいきます。
そんなこんな今日この頃なのですが、正座について調べてみたくなりました。
日本で正座が一般的になったのは江戸時代かららしいのですが、正座の座り方自体は古代遺跡や奈良時代の仏像にも現代の正座と同じ座り方があったとのこと。
それは以下の論文で詳しく検証されています。
・正座の源流 Origin of Seiza:Sitting-Up Straight in Japan 川本利恵、中村 充一
ところで、正座という言葉ですが、Wikipediaには以下のように記されていました。
江戸時代以前には「正座」という言葉はなく、「かしこまる」や「つくばう」などと呼ばれていた。
1889年(明治22年)に出版された辞書『言海』にも「正座」という言葉が出ていないことから、「正座」という観念は明治以降に生まれたと考えられている。
「正座」という言葉は、確かに明治政府が編纂した全1000巻にも上る国学百科全書的「古事類苑」にも出てきません。
また、江戸時代に編纂された中国の「三才図絵」を範とした絵入り百科辞典「和漢三才図絵」にも、江戸時代の俗語・俗諺を集めた「俚言集覧」にも「正座」という言葉は出て来ません。
正座という言葉はまだないにせよ、一般的に正座という座り方を指す言葉として上記Wikipediaには
>「かしこまる」や「つくばう」などと呼ばれていた
とありますが、「つくばう」に関して「古事類苑」「和漢三才図絵」「俚言集覧」を調べた限りでは、正座を指す言葉には思えませんでした。
特に「和漢三才図絵」は編纂者が医師であることから当時の医学はもちろん人体や動作には詳しいのですが、「つくばう」に関して以下のように述べています。
・「和漢三才図絵 巻第十二 肢體部・足の用」
箕踞[和名は美井 みゐ] 蹲踞[宇豆久末留 うづくまる] [俗に豆久波不 つくはふ という]
傲座(ごうざ)[足を投げ出したみだれた座り方]の形が箕(み)に似ているからである。
また平座して両足を伸ばすのを箕踞(みい)という。蝦夷人は常に座るときこうする。
また、ものに拠りかかって座るのを踞という。
獣が前足を直(たて)て座るのを蹲踞(うづくまる)という。
人が膝脛を直(たて)て尻を軽く地につけるのを蹲踞(つくばう)という。
上記を見ると、「つくばう」は現代の体育座りに似た形になるようです。
また、「俚言集覧」を見ても「つくばう」=「うずくまる」とあり、やはり体育座り様の座り方に思えます。
・「俚言集覧」
つくばる
蹲踞をウヅクマルと云に同し ウは發語也 ハとマと通ず
ところで、江戸時代に「正座」という言葉はまだ一般的には流通していなかったようですが、言葉としての「正座」は既にあったようなのです。
それは、「古事類苑」や「俚言集覧」に掲載されている、室町から江戸時代の武家社会のしきたりを集大成した「貞丈雑記」の抜粋の中に出て来ます。
当時、正座のことを一般的には「かしこまる」言っていたようなのですが……。
その「かしこまる」が、ちょっとややこしいことになっていたようです。
・「貞丈雑記 十五 言語」
かしこまると云はおそるゝ事也、貴人主人の威勢をおそるゝ心也、
(中略)
今世ひざを折りて正しく座するを、かしこまるといふは、かしこまり座すると云心也、
貴人をうやまひおそれて座する也、
正座の事をかしこまるとおもふは非なり、
この文章を見て、最初はキョトンとしました。
とにかくやたらと「かしこまる」という単語が出てきて、結局何を言おうとしているのかわかりませんでした。
「最近は正座することを”かしこまる”というが、それは”かしこまって座る”という意味だ。正座のことを”かしこまる”と思ったらそれは間違いだ」
上のように読んだら、訳が分かりません。
でも、しばらくボ~っと眺めていたら、少しわかったような気がしはじめ……。
「かしこまる」と云は畏(おそ)るる事也、貴人主人の威勢を畏るる心也、
(中略)
今世ひざを折りて正しく座するを、「カシコマル」といふは、畏(かしこ)まり座すると云心也、
貴人を敬い畏れて座する也、
正座の事を畏(かしこ)まるとおもふは非なり、
上のように、当時の正座の一般的俗称を「カシコマル」、本来的意味を「畏まる」と分けて書くとわかるような気がします。
正座は江戸時代に急速に一般庶民にまで伝わったといわれていますが、それを庶民たちは「かしこまる」と呼んでいたのでしょうか。
武家社会のしきたりを集大成するほどの「貞丈雑記」の貞丈さんは、その庶民たちの単に座り方だけを指す「かしこまる」の言葉の使い方に我慢が出来なかったのかも知れません。
「かしこまる」とは畏れ敬う心を指すのであって、座り方のことではないのだ。
ただ膝を折って正座しただけで、それを「かしこまる」と言うとはなんと浅薄なことか。
本当の正座とは、かしこまる心を持ちながら座するということなのだ。
そう言いたかったのでしょうか。
ちなみに、医師寺島良安の手による「和漢三才図絵」では、正座の座り方をあっさりと「かしこまる」で納得しているようです。
・「和漢三才図絵 巻第十二 肢體部・足の用」
跪(ひざまずく)[音は癸 キ] 跽(かしこまる)[音は其 キ]
跪[比左末豆久 ひさまつく]は拝して跪くのである。
跽[加之古末留 かしこまる]は長く跪くこと。両膝を地につけて身を立てるのである。
△思うに、夷人は膝を屈めて礼することを胡跽(ひざまずく)という。(※胡は足偏)
跽(かしこまる)に似ているが長座することはできない。
跽は日本人が常に座って客と対するとき、みなこうする。
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コメント
puruさん
正座の由来、面白いですね。「かしこまる」という表現、しっくりくるような、こないような表現で面白いです。
>型とは面白いもので、正座をして丹田に重心が落ちる
と気分は腹の据わった武士。
>意識がシーンと引き締まり、気分はくつろいでいきま す。
puruさんの感覚だと丹田に重心が落ちるということですが、私は、鈍いせいか、腹圧が四方八方に拡がって弾力があり、鞠のような感じです。
いずれにせよ、お腹の感じは、からだとこころを1つにまとめる働きがあるように想います。
投稿: だるま | 2010/04/11 14:31
こんにちは、だるまさん。
>正座の由来、面白いですね。
>「かしこまる」という表現、しっくりくるような、
>こないような表現で面白いです。
なんかねぇ、今ひとつしっくりとこないような……。
貞丈雑記の抜粋は、古事類苑も俚言集覧も同じで途中が略されているんですよね。
幸いネット上に原文画像があるのですが、ミミズののたくったような達筆古文なので、解読に時間にかかりそう。
>puruさんの感覚だと丹田に重心が落ちるということですが、
>私は、鈍いせいか、腹圧が四方八方に拡がって弾力があり、
>鞠のような感じです。
おぉ、鞠のような感じですか。
いかにも丹田っぽくてカッコイイっすね。
ぼくは丹田初心者なので。(^^ゞ
かろうじて体の重心は丹田あたりに落ちますが。
呼気の時どうしたらよいかちょっと迷っていたりします。
最初は体内の澱んだ空気を吐き出すように、けっこう下腹部を凹ませますが。
ある程度したら自然な呼吸に任せています。
吸う時は、だるまさんが書いているように腹圧が四方八方に拡がっていくのが気持ちよいですよね。
腹圧がたかまるとともに、横隔膜が引き下がるというか、ひょっとしたら身体前面の下部肋骨直下あたりの筋肉が伸びる感じなのかも知れませんが、その感じも気持ちいいです。
どちらにせよ、ぼくの場合、その辺に固さがあるから感じるのだと思いますが。(^^;
>いずれにせよ、お腹の感じは、からだとこころを1つにまとめる
>働きがあるように想います。
うん。
正座でなくても、下腹部を凹ませるようにして、下腹部から(イメージとしては微細な水蒸気のような呼気になるのですが)細く長く、自分が丹田に落ちていくように息を吐いていくと。
サクッと思考レベルが低下して、意識が後ろに引くように落ち着き、感覚の海に浸っているような感じになります。
投稿: puru | 2010/04/11 15:57
puruさん、今日は寒いです~ね!
>呼気の時どうしたらよいかちょっと迷っていたりします。
>最初は体内の澱んだ空気を吐き出すように、けっこう下腹部を凹ませますが。
>ある程度したら自然な呼吸に任せています。
ある流派の整体では、背骨を想い浮かべて、その背骨の中心に上から下に向かって呼吸する「脊椎行気」という呼吸法があります。
以前から、吸う時は意識して、吐くことは意識しない、又は、忘れるということを指導されていたのですが、なぜ?吐く時は意識しないか?わかりませんでした。
最近、吸う時は、からだに自然と力が入り(力みと違います。)、吐く時は、吸った時の充実した状態を保つために、吐くことを意識しないのか?と感じています。
仮に、吐くことを意識すると肩や背中に緊張が残る感じがします。
puruさんのお陰で呼吸の醍醐味が増してきました。
投稿: だるま | 2010/04/12 15:22