五行(四気)を体感的に理解してみる(1)
東洋医学や占術、太極拳などの基本的理論となる陰陽五行理論・木火土金水ですが、慣れてくると木火土金水それぞれの概念は掴めてきます。
概念はなんとなく掴めるのですが、それらをもっとダイレクトに感覚的に理解してみたい。
そんな思いから、昨年あたりから五行を実感的に理解する練習をはじめてみました。
ところで、天地開闢説話としては中国の文献上最も古い記述といわれる「淮南子」天文篇に、五行のもととなるであろう四時から万物が生成される様が次のように描かれています。
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天地未形、馮馮翼翼、洞洞灟灟
故曰太始
太始生虚鄠、虚鄠生宇宙、宇宙生氣
氣有崖垠、清陽者薄靡而成爲天、重濁者凝滞而爲地
精妙之合専易、重濁之凝竭難
故天先成而地後定
天地之襲精、爲陰陽、陰陽之専精、爲四時、四時之散精、爲万物
「淮南子」天文篇より
天地未だ形あらざる時、馮馮翼翼(ひょうひょうよくよく)、洞洞灟灟(どうどうしょくしょく)たり
故に太始という
太始は虚鄠(きょかく)を生じ、虚鄠は宇宙を生じ、宇宙は気は生ず
気に崖垠ありて、清陽なるものは薄靡して天となり、重濁なる者は凝滞して地となる
精妙の合専するは易く、重濁の凝竭するは難し
故に天先ず成り、地のちに定まる
天地の襲精は陰陽となり、陰陽の専精は四時となり、四時の散精は万物となる
混沌と存在していた太始から虚鄠(きょかく)が生じ、その虚鄠から宇宙が生まれ、気が生じる。
そして、清陽の気は上って天となり、重濁な気は下がって地となる。
また、天地の精気は陰陽となり、陰陽の精気が集い四時が生まれ、四時の精気が散じて万物を生じる。
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古代の人々は、このような天地開闢説話を理論的想像力で描いたのでしょうか。
それとも、瞑想的な深化により感知したものなのでしょうか。
そういえば、左脳的分析や時間と空間の観念が落ちた時、右脳的感覚では時間の観念や自他の区別がなくなり、存在との一体感の中でただただ至福に包まれると聞きます。
(「奇跡の脳」ジル・ボルト著)
個人的には、古代の人々が瞑想的に感知したものを土台として説話を描いたのであり、この宇宙開闢説話は時空を超えた次元のまさに”いま、ここ”に展開されているものなのではないか、などと妄想したりするのですが……。
この万物の元となる四時は、四気でもいいでしょうし四季でもいいと思います。
四季は地球が太陽の周りを公転することで太陽の熱エネルギー照射角が変化する春・夏・秋・冬。
四気は五行の木火土金水の中の四つのエネルギー状態、木・火・金・水。
四季や四気には土用や土が含まれていませんが、この土に関して※「五行大義」第二辨體性に次のように述べられています。
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居位之中、總於四行、積塵成實。積則有間。有間故含容。
(土は)位の中に居り、四行を総し、塵を積みて実を成す。積もれば則ち間あり。間有る故に容を含む。
土は中心に位置し、四行(木火金水)を統括し、塵を積んで実をなす。
積もれば間が出来、間があるからそこに容(かたち)をおさめる。
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土は、中心に位置していて間に形をおさめ、四行(木火金水)を統括する。
考え方としては、この土を「四行(木火金水)が働く場」として捉えれば良いと思います。
例えば、肉体(脾体、脾臓・土)を場として肝臓(木)、心臓(火)、肺臓(金)、腎臓(水)のエネルギーが働く人体、というように。
また、家を場とした場合、朝日が昇る陽に晒される東側は木気を帯び、中天の陽に晒される南側は火気を帯び、沈む西日に晒される西側は金気を帯び、常に日陰に位置する北側は水気を帯びている、というように、場には常に四気エネルギーが働いています。
※「五行大義」とは、先秦から隋の時代までの五行説を集成・分類したという書物。
中国では早くから失われてしまいましたが、日本へは平安時代初期の「続日本紀」に既に記述が見られ、日本の平安貴族文化、陰陽道、仏教などに多大な影響を及ぼした書物です。
「続日本紀」には陰陽道の教科書として記されていて、日本の陰陽道に早くから影響を与えていたことがうかがえます。
特に陰陽道の安倍、賀茂両家の陰陽師に与えた影響は大きく、両家の多くの書物中に「五行大義」の文字を見ることが出来ます。
また、日本神道に与えた影響も大きく、吉田神道、伊勢神道、山王神道に関する書物にも「五行大義」の文字は多く見えます。
室町時代以前の「五行大義」は特定の階級に属する、陰陽家、神官、僧侶、宮廷貴族など、ごく一部の人々の秘本でしたが、江戸時代に入ると転写本や版本が次々と出現し、ある特定の階級の独占的秘本としてではなく、一般民衆の実用書として広い階層の人々に親しまれるようになりました。
中でも平田篤胤はその著書の中に「五行大義」を縦横に引用しています。
本家中国では早くに失われ日本でのみ伝承された「五行大義」ですが、漢、魏、六朝時代の五行説に関する佚亡資料が多く含まれる貴重な書物です。
また、平安時代より陰陽道や神道、仏教に多大な影響を与えた他、江戸時代には文化的にも広く浸透したことがうかがわれますから、日本における陰陽五行のベースともなる書物といっても過言ではないと思います。
・五行大義 (中国古典新書) 中村 璋八 ¥ 2,625
ぼくの手許にある五行大義もこの本です。解説や現代語訳は下記の書籍のように全文にはわたっていませんが、巻末に解説や現代語訳が掲載されていない部分の漢文が掲載されていますから、かなり重宝しています。
・五行大義〈上〉 (新編漢文選 思想・歴史シリーズ) 中村 璋八 ¥ 7,350
・五行大義〈下〉 (新編漢文選 思想・歴史シリーズ) 中村 璋八 ¥ 7,350
個人的には、五行(木火土金水)を「場」とそこに働く「四気=四つのエネルギー状態(方向性)」というように捉えていますが、「五行大義」第一釋五行名から、この「四気=四つのエネルギー状態(方向性)」を伺わせる部分を抜き出してみます。
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木者冒也。言冒地而出、字従於屮。下象其根也。其時春。…略… 東者動也。震氣故動。
木は冒なり。地を冒して出づるを言い、字は屮(てつ)に従う。下はその根を象るなりと。その時は春。…略… 東は動なり。気を震う故に動なり。
火者炎上也。其字炎而上、象形者也。其時夏。…略… 夏假也。假者方呼萬物而養之。
火は炎上するなり。その字は炎えて上る形を象るものなり。その時は夏。…略… 夏は仮なり。仮はまさに万物を呼びてこれを養うなり。
土生於金。字従土、左右注。象金在土中之形也。其時秋。…略… 秋之爲言愁也、以時察守義者也。
土は金を生ず。字は土に従い、左右の記しは金の土中に在るの形を象るなりと。その時は秋。…略… 秋の言たる愁(おさめる)なり。時を以て察(あきらか)にするとは、義を守るものなりと。
水之爲言演也。陰化淖濡、流施潜行也。…略… 冬終也。萬物至此終蔵也。
水の言たる演(ながれる)なり。陰化して淖濡(うるお)し、流施潜行するなり。…略… 冬は終なり。万物のここに至って終り蔵(こも)るなりと。
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そういえば以前、東洋医学の古典「黄帝内経素問」四気調神大論篇のことを書いていましたが、そちらの方が四気のエネルギー状態はわかりやすいですね。
転載しておきます。
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春三月、 此謂發陳、 天地倶生、 萬物以榮、 夜臥早起、 廣歩於庭、 被髮緩形、 以使志生、 生而勿殺、 予而勿奪、 賞而勿罰、 此春氣之應養生之道也。 逆之則傷肝、 夏為寒變、 奉長者少。
(意訳)
春の三ヶ月間を発陳といいます。(発陳:古いものから新たな生命が芽生える様)
天地が新たに生じ、万物が栄える時です。
夜は暗くなると共に寝、朝は早めに起きましょう。
庭をくつろいで歩き、髪をきつく結んだりはせず、衣服もゆったりとしたものを着たいものです。
心の内から自然に意欲が生じる時です。
諦めたり抑圧したり無視せずに、暖かく見守り育むようにしましょう。
これが春気に応じて生を育む道です。
これに逆らえば肝を傷付け、夏には冷えを招き夏気の恩恵を受け難くなってしまいます。
夏三月、 此謂蕃秀、 天地氣交、 萬物華實、 夜臥早起、 無厭於日、 使志無怒、 使華英成秀、 使氣得泄、 若所愛在外、 此夏氣之應養長之道也。 逆之則傷心、 秋為痎瘧、 奉收者少、 冬至重病。
(意訳)
夏の三ヶ月を蕃秀といいます。(蕃秀:春に生じた陽気が溢れるように成長する様)
天地の気が交わり、万物は華開き充実する時です。
夜は暗くなると共に寝、朝は日の光を嫌わず日の出と共に起きましょう。
気持ちは伸び伸びと拡がるように開放的になっています。
華開くような気持ちや想いを押さえ込むと、その蓄積は爆発するような圧力(怒りなど)を生じさせてしまいます。
涼やかに発散的開放的に過ごしましょう。
もし外界に向かって気持ちが開かれ心惹かれるようであれば、これが夏気に応じた成長を育む道です。
これに逆らえば心(臓)が傷付き、秋に痎瘧(マラリアの一種)となったりエネルギーが収養するのを妨げることとなり、冬に至って病気が重くなります。
秋三月、 此謂容平、 天氣以急、 地氣以明、 早臥早起、 與鶏倶興、 使志安寧、 以緩秋刑、 收斂神氣、 使秋氣平、 無外其志、 使肺氣清、 此秋氣之應養收之道也、 逆之則傷肺、 冬為喰泄、 奉藏者少。
(意訳)
秋の三ヶ月を容平といいます。(容平:おだやかにおさめる様)
天の気は勢い強く、地の気は清らかに鮮明です。
日暮れと共に寝、朝は日の出のニワトリの声と共に起きましょう。
秋の収斂するエネルギーは、頑固さやこだわり、後悔や反省する気持ちを促す傾向もあります。
紅葉を眺めながら澄んだ空気を味わうように、引き締まる気持ちや収斂する秋気を味わいながら過ごしましょう。
外界の変化に過度に囚われないようにし、肺の気が清らかであるように過ごせれば、これが秋気に応じた養収の道です。
これに逆らえば肺が傷付き、冬に食物の陽気が漏れて下痢をしたり、内に陽気を保つことが難しくなります。
冬三月、 此謂閉藏、 水冰地斥、 無擾乎陽、 早臥晩起、 必待日光、 使志若伏若匿、 若有私意、 若已有得、 去寒就温、 無泄皮膚使氣亟奪、 此冬氣之應養藏之道也。 逆之則傷腎、 春為痿厥、 奉生者少。
(意訳)
冬の三ヶ月を閉蔵といいます。(閉蔵:陽気を伏蔵している様)
水は凍り大地は凍裂し、万物はみなその門を閉ざし陽気を内側深く胎養しています。
胎養している陽気を煩わせることがないよう、夜は早くから布団に入り朝はゆったりと遅めに起き、出来るだけ日光と共に生活するようにしましょう。
あたかも秘めたものを隠すような静かな気持ちで想いを温め、既にすべて達成したかのような満ち足りた心持ちで過ごしましょう。
汗をかいて皮膚から陽気が奪われないようにし、温かく過ごせば、これが冬気に応じた閉蔵の道です。
これに逆らえば腎が傷付き、春になって手足が効かなくなったり重ダルくなったり、陽気を生じ難くなります。
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これら「五行大義」第一釋五行名や「黄帝内経素問」四気調神大論篇から、場である土に働く四気のエネルギー状態を視覚的簡略図にすると下図のようになります。
木は場を貫いて内部から外部へ、金は場を貫いて外部から内部へのエネルギーの方向性があります。
それに対して、水は場の内部にあって求心的、火は場の外部にあって遠心的なエネルギーの方向性があります。
なんだか無駄に長くなってしまいましたが(^^ゞ、五行(四気)の体感的理解の方法は次回書いてみます。
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